梅雨入りを前に、五月病に関する話題やニュースがよく聞かれます。
先日クライアントの方からも、部下の方の五月病に関するご相談がありました。
皆さま、五月病になったことはありますか?
程度の差はあれ、鬱々とした気持ちに支配されてしまう状況って殆どの人が経験したことがあると思います。
嫌な考えが次の嫌な考えを呼んで、どんどん負のスパイラルに陥るんですよね。
これって、本当に苦しい状況です。
鬱々とした気分を予防したり回避したりする方法は色々あり、私のホリスティックヘルスコーチングのセッションの場では、大まかに分けて
思考・環境・食事・運動・睡眠(+細かな生活習慣)
といった切り口から捉え(これらは全て五月病との関連があります)、その人にベストな要素から試してみることがありますが、
今回はこの中から1つ、私自身、多大な影響を受けた経験があり、意外にもあまり一般の方々に知られていないものを紹介させてください。
それは、
「運動」
です。
「運動」と聞いて、「あ〜、ハイハイ」とこれ以上読むのをやめようと思った方!!!
(過去の私は間違いなくそうです、、)
どうぞもう少しだけお付き合いください。
運動には、一般的に知られている以上に、脳の機能に影響を与える要素があるのです。
知っておくと、自分や自分の大切な人の人生にとって、必ず役に立つシーンがあると思います。
ちなみに私は、週に3回程度ジョギングやヨガをしていますが、身体の健康ではなく、精神の健康のためにやっています。
*単なる鬱々とした状態とは違い、「鬱病」の症状のある方は、必ず専門医を 受診することをお勧めします。
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気の持ちようではない
鬱々とした気持ちから抜け出せない状況の時、人から、
「頑張れ!」
「前向きになって!」
などと声をかけられても、響かないどころか、逆効果だった経験はないですか?
それは、別に「意思の力が弱い」から鬱々とした気持ちから抜け出せない訳ではないからです。
気の持ちようの問題ではなく、その時まさに脳内では、嫌な考えが嫌な考えを呼ぶようなメカニズムが働いています。
(気の持ちようで元気になれる時もあります。今回は、それでも元気になれないケースのお話です。)
脳の機能は非常に複雑であるため、気持ちの落ち込みが一体どのように引き起こされているのかまだ全容は解明されていませんが、
鬱状態の人の脳では、感情の制御に関わる特に以下3つの脳内神経伝達物質が欠乏していることが分かっています。
- ノルアドレナリン(やる気、活動性、積極性、思考力、集中力を促す)
- ドーパミン(意欲、探求心、喜びや快楽をもたらす)
- セロトニン(幸福感、不安や興奮の軽減、感情コントロールを促す)
これらは私たちの感情や精神状態に、直接的な作用を及ぼします。
つまり、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れていたり、欠乏したりするせいで感情が左右され、不安が不安を呼んだり、沈んだ気持ちから抜け出せなくなるんですね。
「悪いことがあったから気が滅入っている」というより、「気が滅入っているから物事を悪くしか考えられない」ような脳内の状況になっているということです。
その状態を一番なんとかしたいのは当然本人ですが、できないんです。
神経伝達物質のバランスによって感情のコントロールを失っているのであって、努力や気力の問題ではないんですね。
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落ち込んだ時、なぜ運動が脳に良いのか?
当然この状況が慢性化・深刻化すると、いわゆる鬱病に繋がっていきます。
鬱病になった時に処方される抗うつ剤には、上記のような脳内神経伝達物質の働きを高める作用があります。
しかし、あまり知られていませんが、運動をすると、抗うつ剤を飲まなくても、先ほど述べたノルアドレナリン・ドーパミン・セロトニンといった脳内神経伝達物質の分泌量が増えることが分かっています。
1999年にデューク大学で156人のうつ病患者に対して16週間にわたって行われた実験では、抗うつ剤を飲んだグループと運動をしたグループで、いずれもほぼ同じ割合で鬱症状が劇的に改善するという結果が出ました。
更に6ヶ月後の調査で、運動したグループの方が鬱がぶり返した割合が著しく低かったということも分かりました。
抗うつ剤には様々な辛い副作用が生じることもありますが、運動であればこうした副作用の心配もありません。
運動は、まさに天然の抗うつ剤とも言えるかもしれません。
また、運動によって、BDNF(脳由来神経栄養因子)という、新しい脳細胞の生成を促すための物質が作り出されることも分かっています。
実はこのBDNF、近年の神経科学分野の研究者から注目を浴びている物質です。
まだ完全には解明されていない鬱病のメカニズムですが、一部の科学者たちが唱える最新の説によれば、鬱病は脳細胞が充分に作られなくなることが関係して引き起こされるのではないかと考えられています。
鬱病の人はBDNFの分泌量が少ないことも分かっています。
運動によってBDNFが分泌されることで、BDNFが脳細胞を守り、生存や成長を促して鬱症状を防いでくれるのではないかと考えられています。
この他にも、詳述はしませんが、運動をすることで、
- コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰な分泌を抑える
- 海馬や前頭葉の機能を守る
- エンドルフィン(痛みを和らげ幸福感をもたらすホルモン)を増やす
といったストレスに対する抵抗力を高めてくれる効果が得られることが分かっています。
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どんな運動をしたら良い?
では、どんな運動をしたら良いのか。
これも様々な研究がなされていて、諸説ありますが、共通して言えそうなのは、30分程度の有酸素運動を週に2、3回程度続けることがお勧めのようです。
例えば上記の脳内神経伝達物質のみを捉えるなら、運動した直後から分泌量が増えますが、運動を継続していくことで、分泌量も増えていきます。
BDNFに関しては、ある程度心拍数が上がった時に多く分泌されることが分かっています。
しかし、科学的な前提云々より、どんな運動をどの位すれば良いかは、自分にとって心地の良いものを選択することが何より重要だと私は考えています。
普段運動習慣のない人が、気分の上向かない時に、週に3回30分のランニング、できませんよね??
まずは靴を履いて、気持ちよく、近所の散歩をすることから始めるので充分だと思います。
そうして気分が晴れてきて、やれそうと思ったら、徐々に質や量を変えていけば良いのではないでしょうか。
寄り添ってくれるパートナーの存在などがあれば更に良いでしょうね。
実際に、運動が精神に与える影響を知っていた人が、うつ気味だったパートナーを外へ連れ出して、事態が深刻化する前に回復に向かったという話を知っています。
もちろん元気な人でも、運動することは脳機能にとって嬉しいことばかりなので、とてもお勧めです!
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なぜ知られていない!?
ところで、副作用もなく、こんなにスゴい運動の効果・・・科学的にも明らかになってきているのに、どうしてあまり知られていないのでしょう?
運動に抗うつ剤と同じような効き目があるという研究結果が明らかになった時は、新聞各社によって報道されたそうです。
しかし、世間にとってはそれほどインパクトはありませんでした。
なぜなら・・・新薬の開発ならいざ知らず、運動が精神に与えるという情報についてビジネス的な要素はなく、マーケティング費用もかけられないからです。
これは、本当に勿体ないなと思います。
全てのものは、「思考」から生まれます。
物理的なあらゆる動きの前には、ああしよう、こうしようという「思考」が先立ちますよね。
つまり、前向きな「思考」ができるかどうかで、自分の人生も、世界も大きく変わります。
運動が健全な精神に影響を与えるということを知っているだけで、それは誰もにとって大きな武器になると思うのです。
ということで、もし気が滅入ることがあったら・・・
さぁ、靴を履いて出かけましょう!
参照:
脳を鍛えるには運動しかない!(ジョン J. レイティwithエリックヘイガーマン)
BRAIN 一流の頭脳(アンダース・ハンセン)