holistic

“孤独”は健康に影響する?(前編)

先日、商社勤務時代からの友人で、コンテンツプロバイダーで歴史研究家でもある李東潤先生にお誘い頂き、李先生が行うオンラインの歴史授業で、「健康」がテーマに取り上げられる回に、私もゲスト出演させて頂きました。

https://schoo.jp/class/5086

数百人を前にホリスティックヘルスについて解説できる機会を頂けて、大変有り難かったです。

ところで、「社会的健康」という言葉、皆さんは聞いたことはあるでしょうか?授業では、見落としがちな「社会的健康」についてフォーカスが当てられました。せっかくの機会ですので、こちらでも社会的健康についてお話したいと思います。少し長い文章となってしまいますので、前編・後編の2回に分けてお届けします。

 

 

健康とは何か?

私の好きなフレーズの1つなのですが、WHO(世界保健機関)は健康について、以下のように定義しています。

“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”

「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」

つまり、ただ単に病気でないからといってその人が健康であるということにはならず、健康であるためには、体も心も、そして社会的にも良い状態であることが必要、ということですね。

従来健康と言えば肉体的健康のことを指す場面が多く、昨今では精神的健康についても大きく注目を浴びるようになってきました。一方で、社会的健康については、まだ一般的にその認知は高まっていないように感じています。社会的健康という用語自体を使うわけではないものの、その概念はまさにホリスティックヘルスを語る上で極めて重要であり、肉体的健康や精神的健康とも相互に影響し合っていることから、健康を語る上で欠かせないものであることは間違いありません。

社会的健康とは何か、それはどのように私たちの健康に影響するのか、ホリスティックヘルスの観点からご紹介します。

 

健康のために大切なことは何だろう?

仕事柄、健康に関する質問を受けることがよくありますが、その多くは「不調を解消するにはどんな食べ物を食べたら良いでしょうか?」、「健康になるにはどんな運動をしたら良いのでしょう?」というもので、生活習慣に関わることが殆どです。確かに生活習慣病は大きな社会問題として蔓延っており、人々の関心が生活習慣に向けられることは自然であり、実際にとても重要な事です。一方で、食事や運動などの生活習慣を改善させるだけで、本当に健康は実現できるのでしょうか?

先日夫に、「心臓病の原因って、何だと思う?」と聞いてみたところ、煙草、高脂肪の食事、運動不足、というような答えが返ってきました。間違いではなく、確かにこれらは心臓病の要因になると分かっています。しかし、実は現在科学的に判明しているこれらの危険因子を全部足し合わせたとしても、心臓病の原因の50%も説明できないと言われています。

最新の科学が大きく進歩していることは言うまでもなく、昔は分からなかった病気の原因が解明され、特効薬も多く開発されています。しかし、病気の原因が全て発見されているわけではなく、当然健康の要素も全てが解明されているわけではないのです。

では、残り半分以上の心臓病の要因には、一体どのようなものが含まれている可能性があるのでしょうか?

まだ完全に解明はされていないものの、病気を引き起こす大きな要因の1つとして、実は「孤独」が現在注目を集めています。言い換えると「人との繋がり」。つまり「社会的健康」が健康を構成する重要な要素の1つではないかと考えられ、今まさに世界の大学や機関で研究が行われています。

 

社会的健康は何故重要なのか?

社会的健康、つまり人との繋がりについて、その重要性を知らしめてくれるストーリーがあります。

アメリカのペンシルバニア州に、ロセトという町があります。ロセトは、19世紀末にイタリアからアメリカに移住してきた集団により作られた町です。1950年代、この町はとある研究で脚光をあびることになります。

第二次世界大戦後の当時のアメリカは、心臓病が蔓延し、死因のトップとしてランクインしていました。そんな時、この町に偶然関わることになった医師が、ロセトの人々の心臓病比率が著しく低く、その他疾患の比率も低く、死因の多くが老衰であることを知り、その理由を解明すべく調査に乗り出したのです。

まず調査団は、ロセトの人々の食事に秘密があるに違いない(健康の秘訣はオリーヴオイルか!?)と考えます。しかし、彼らの食事は当時の一般的なアメリカ人の食事と変わらないどころか、動物性ラードを多用してミートボールを作り、パスタ、ピザをたくさん食べ、ワインも毎日たくさん飲んでいました。それどころか、ロセトの人々は煙草もたくさん吸い、ジョギングなどの有酸素運動をするわけでもありません。むしろ肥満体質であったようです。

では、遺伝子に何か要因が隠されているのではないかと考えた調査団は、イタリアの同じ地方からアメリカの他地域に移住した人々について調べました。しかし、それらの人々の心臓病比率は、他のアメリカ人と同じだったのです。

他にも、水や気候など、色々な要因を調べましたが、答えは見つからず。最終的に調査団が至った結論は、以下です。

ロセトの人々は誰も孤独でない

ロセトの人々は、2、3世代の家族が同じ屋根の下共に生活し、仕事が終われば隣家の人々と一緒にワインを飲みます。週末には皆が教会に集まって一緒に祈り、祝祭日を共に楽しみます。お互いが助け合い、子供の面倒を見合います。

こうしたコミュニティの強い繋がりが、人々を病気から遠ざけ、健康にしていたというのです。そして、その結論が正しかったということを証明するかのような結末がこの町に待っています。子供達を愛し、より良い環境を与えたいと思ったロセトの人々は、子供たちを外の町の大学に行かせるようになります。すると子供達は、結婚などによって徐々に外のコミュニティへ移るようになり、地域の結束力は低下しました。ロセトの町の人々の関わり合いの習慣は減り、その結果、1970年代にはロセトの町の心臓病の比率は、他地域と同じになってしまったのです。

 

後編に続く)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です